「雨のなかの私」を描く授業とは…?

ケースメソッドとは、グループで意見交換しながら問題解決の方法を見つけ出す学修法です。心理学科ではカウンセリングなど言語的な治療技法も扱いますが、言葉を使わない非言語的な治療技法である箱庭療法やコラージュ療法なども学びます。ここではそのひとつ「絵画療法」を実践的に学ぶケースメソッドの授業を紹介します。

今日の授業の課題は「雨のなかの私」をテーマに絵を描くというもの。これは実際の現場でも使われる技法で、クライエント(来談者)はテーマから思い描く情景を自由に絵に描きます。絵の上手・下手は気にしなくても大丈夫。学生は絵を描き、治療的効果を体験します。そして最後に先生がその意味を種明かしするという流れです。

「唯一の正しい解釈」が存在しない世界

テーマを与えられ、楽しそうにスラスラ描く学生、恥ずかしそうにためらう学生、描かれるイメージもポジティブなもの、寂しげなものと多種多様。絵が完成したら学生同士でペアを組み、描かれたものの意味を聞いたり、簡単な感想を言い合ったりします。このとき、批判するような言葉は使いません。先生は「何が描かれているかより、できあがったものの全体的な印象が大切」と説明します。描かれるものがさまざまならば、そこから受ける印象も人によってさまざま。1対1の正解を探し「診断」するのではなく、描かれたイメージからその人の心の状態を伺い、どんなケアが必要かを考えるのです。

「表現」にはカタルシス(浄化する)作用があるといいます。「気持ちがすっきりした」という感想が多く寄せられるこの授業では、学生も内面を外に出すことで、何かを吐き出し、すっきり効果を実感できているようです。

クライエントとの深い信頼がカタルシスを実現する

悩みを言葉で説明するのが苦手な人もいますが、絵に言葉は必要ありません。緊張して俯いていても、手を動かして何か描けば、それを媒介にしてコミュニケーションが進められます。絵画療法など非言語的な治療技法は、心を可視化し視覚的に理解できるようにするもの。しかし忘れてならないのは、その前提として人と人の基本的な関係があるということです。クライエントとの信頼関係がなければ素直な表現を引き出せませんが、深く信頼してもらえたときは深い表出ができ、カタルシスにつなげることができます。セラピストが見守っているからこそクライエントも安心して表出できる。心理療法の現場では、その関係を作り出すことが何よりもまず大切なのです。

人間関係学部 心理学科 李 敏子 教授

自分の持ち味を生かしつつ、
相手のことを大切に考えられる人に。

人間関係学部 心理学科 李 敏子 教授

箱庭では、「墜落」や「事故」、「救急車で運ばれる」などのテーマが表現された場合、クライエントはそのストーリーに自分自身の傷つきを重ねていることも多いです。救急車で運ばれるのは「自己治療」。それがだんだん元気になってくると、旅立ちや出発というテーマが現れるようになってきます。
クライエントとその時間を共有するセラピストは、ベテランになるほど素人っぽくなるといわれます。若い頃は理論武装して頭でっかちになりがちですが、経験を積むとじっくり構えて必要以上のことはしなくなる。そうしないと、目の前にいる人の現実と知識の間にズレが生じてしまうのです。クライエントへの誠実さをしっかり持ちながら、日常的援助の延長のようにさりげなく自然に向き合う、それができるようになると一番いいですね。ただし、それには経験が必要。私も、10年はかかりましたよ。